五大法律事務所それぞれの特徴

前回は五大法律事務所の共通点について書いたので、今回はそれぞれの特徴について書いてみたいと思います。

 

なお、前回と同様、古い情報または正確ではない情報の可能性もありますし、私の個人的な意見も含みますのでご注意ください。

 

1 西村あさひ

 

西村あさひは、「体育会系・団体主義」の事務所だと思います。つまり、ワイワイとしたイベントや飲み会が好きな体育会系の人が集まる傾向にあり、かつ、個々の弁護士の裁量よりも組織としての規律を重んじる傾向にあるということです。

 

長年継続して国内最大手の地位を守っており、業界における知名度と評判は非常に高いです。国外進出も率先して行っています。スタープレイヤーが多く、所属弁護士が書いた本も数多く出版されています。

 

また、国内の法律事務所の中では組織として最も成熟しており、経営が上手いという印象があります(法律事務所は基本的に個人事業主の集まりであり、良くも悪くも組織運営が未成熟な場合が多いのですが、西村あさひは企業並みにキッチリと組織として運営されている印象があります)。

 

ただし、西村あさひは激務で有名であり、五大のなかでもアソシエイトの労働時間が一番長いと言われています。

 

所属弁護士は個性の強い人が多く、自分の夢や趣味について熱く語る人がたくさんいます。私が就活生時代に西村あさひのパートナーと食事に行かせていただいた際には、そのパートナーは採用活動の場にもかかわらず終始自分の好きなアイドルの話をし続けていたので、反応に困った記憶があります(笑)

弁護士などの専門家は周りを気にしない人の方が向いているといわれているので、この傾向は別に悪いことではないと思います。ただ、典型的なA型の日本人だと埋没してしまうかもしれません。

 

基本的にチームで動くので、チームトップのパートナーと合わないと辛いという話も聞きます。

もっとも、師匠と弟子のような関係になるので、チーム内の弁護士から多くのことを学べるという意見もあるようです。

 

最大手だけあって取り扱い分野は幅広く、どの分野でも強いです。特に、M&Aと倒産・危機管理については五大の中でも高い評判を誇っています。

 

給与は固定給+ボーナスで、固定給部分が毎年増えていく方式です。

 

体力に自信があり、体育会系のノリが好きで、チームで頑張るのが好きという方には向いているのではないでしょうか。

 

2 アンダーソン・毛利・友常

 

アンダーソンは、「文化系・個人主義」の事務所だと思います。つまり、穏やかな性格の人が集まる傾向があり、かつ、比較的個々の弁護士の裁量を重んじるということです。

 

極端な性格の人が少なく、四大の中では一番人当たりのいい人が多い印象があります。

 

五大の中では労働時間が短い方と言われています。

ただし、アンダーソンのアソシエイトの労働時間は個人差が大きく、五大で一番忙しいアソシエイトはアンダーソンにいるという話も聞いたことがあります。

 

前身となる「アンダーソン・毛利法律事務所」が外国人弁護士により設立されたという経緯もあり(実は毛利氏もアーサー・毛利という日系アメリカ人です)、いまでも外資系法律事務所に似た文化を有しているようです。

 

もっとも、現在のアンダーソンは、上記のアンダーソン・毛利法律事務所と、「友常木村法律事務所」と「ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所」の3事務所が合併・統合して成立した事務所です。そして、友常木村とビンガムは、日系企業のような文化を持っていたそうです。

そのため、上記の「文化系・個人主義」とは全く異なる特徴をもつ弁護士もたくさん所属していると聞きます。特に、友常木村が得意としていた証券発行系の案件や、ビンガムが得意としていた倒産・危機管理案件を専門とする弁護士については、その傾向が強いのではないかと思います。

 

五大の中でも海外クライアントの比率が大きく、海外におけるプレゼンスは大きいと言われています。若手アソシエイトのうちから英語を扱う案件に関与することも多いようです。また、留学にいくアソシエイトの割合もかなり多いと思います。

 

また、四大の中では唯一セクション制(分野ごとに部門を区切る方式)を採用していないため、アソシエイトは色々な分野の案件に関与することができると言われています。

ただし、色々な分野の案件をやる場合、特定の分野の案件を繰り返すよりも大変ですし、専門性を高めるのに時間がかかるので、それらの点は覚悟する必要があります。

 

分野としてはキャピタルマーケッツを含むファイナンスに強く、M&Aや訴訟は他の四大と比べて若干弱いというイメージです。ただし、上記のとおり海外におけるプレゼンスは大きく、国際案件全般に強いとはいえそうです。あと、労働事件も五大の中では多く扱っている印象があります。

 

給与は2年目まで固定給、3年目からは固定給+顧客への請求金額に応じた歩合給です。歩合給を採用しているので、頑張りによっては西村や森濱田よりも多くの収入を得られる可能性があります。

 

国際的な案件に興味がある人、色々な分野の案件をやってみたい人、大企業の労働案件をやってみたい人などには向いているのではないかと思います。

 

3 長島・大野・常松

 

長島は、「文化系・団体主義」の事務所だと思います。つまり、穏やかな性格の人が集まる傾向があり、かつ、個々の弁護士の裁量よりも組織としての規律を重んじる傾向にあるということです。

 

アンダーソンと同様、極端な性格の人が少なく、穏やかで接しやすい人が多い印象があります。また、弁護士事務所は企業と比べると変人に寛容な場合が多いのですが、長島は事務所全体としてキチッとしており、身だしなみや礼儀に厳しいという印象もあります。

 

また、長島は五大の中でもアソシエイトに対する評価がシビアで、評価されているアソと評価されていないアソで、扱いかはっきりと違うとも言われています。

例えば、評価されているアソにはどんどん仕事が振られるのに対し、評価されていないアソには仕事が全然振られない(干される)と聞きます。

また、評価されているアソは留学後の海外研修先まで事務所が面倒を見てくれるのに対し、評価されていないアソは自分で研修先を探さなければならず、もっと評価されていないアソは留学後に事務所に戻ってこなくてよいと言われる、という話も聞きます(研修先については、実際には仲のいいパートナーがコネを持っているかどうかが大事であって、必ずしも評価と結びついているというわけではなさそうですが)。

よく言えば実力主義、悪く言えば冷たいということでしょうか。

 

また、そのように評価がシビアなので、パートナーになるのも五大のなかでも難しい方であると聞きます。

 

どの分野にも強いですが、特にファイナンスにおける評判は高いです。また、税務訴訟では国を相手に連戦連勝であったとも聞きます。

 

給与は2年目まで固定給、3年目からは固定給+労働時間に応じた歩合給です。長島はこの歩合給の割合がいいことで有名であり、おそらく五大の中で最もアソシエイトの給料が高くなりやすいのは長島だと思います。

ただし、上記のとおりアソシエイトに対する評価がシビアらしいので、パートナーから仕事がもらえず労働時間が増えない場合には、必ずしも給料が高くなるわけではないでしょう。

 

キッチリした雰囲気が好きであり、バリバリ働いて若いうちからガッツリと稼ぎたいと考えている方にはおすすめできる事務所です。

 

4 森・濱田松本

 

森濱田は、「体育会系・個人主義」の事務所だと思います。つまり、ワイワイとしたイベントや飲み会が好きな体育会系の人が集まる傾向にあり、かつ、比較的個々の弁護士の裁量を重んじるということです。

 

その体育会系ぶりは、西村あさひよりも上なのではないかと思います。体格がよく声の大きい豪快な人が多いイメージです。

私が就活生として森濱田のパートナーと食事に行かせていただいた際には、一次会で焼き肉を食べ、二次会でたらふくお酒を飲み、もうお腹いっぱいだと思っていたところ、パートナーが締めの卵かけご飯を人数分注文しだしたので、「これがモリハマか!!」と感動したのをよく覚えています(笑)

 

また、森濱田の面白いところは、案件を一次的に担当する若手アソシエイトをパートナーよりも前面に押し出すことです。

依頼者はアソシエイトではなくパートナーのお客さんなので、一般的には、アソシエイトをパートナーよりも前面に押し出すことはしません。例えば、書面に弁護士の名前を記載するときは、パートナー⇒アソシエイトの順番に記載するのが通常です。また、依頼者との直接の連絡は原則としてパートナー(またはパートナー就任が近いシニアアソシエイト)が行うという事務所もあります。

しかし、森濱田では、たとえ担当アソシエイトが若手であろうと、書面にアソシエイト⇒パートナーの順番に名前を記載することが少なくありませんし、クライアントとの直接の連絡も基本的に担当アソシエイトが行うらしいです。

このような環境下で仕事をすれば、アソシエイトはモチベーションを高く保てるかもしれません。

 

分野としては、特に訴訟・紛争とM&Aの評判が高いです。M&Aは、いまのところ森濱田と西村あさひが国内の2強といえると思います。訴訟・紛争については、前身である森綜合法律事務所の時代からとても有名であり、五大の中でも森濱田が圧倒的な評判を誇ります

 

ただし、国際案件については、他の四大に比べてプレゼンスが小さい印象があります。留学にいくアソシエイトの比率も他の四大と比べると低いと思います。海外案件を全く扱っていない弁護士の比率も五大の中では大きいのではなでしょうか。

 

給与は、1年目は固定給、2年目からは固定給+ボーナス(労働時間または顧客への請求額に応じた評価に基づく)です。

 

体育会系のノリが好きで、国内案件をバリバリやりたいと思っている方には向いているかもしれません。

 

5 TMI総合

 

TMI総合は、四大とはかなり異なる特色を有する事務所です。

 

体育会系か文化系かというと、ちょうどその中間ぐらいでしょうか。また、団体主義か個人主義かについては、下記のように中小事務所の特色を残していることから、どちらかというと個人主義だと思います。

さわやかなスポーツマンタイプの人が多く、四大と比べると良くも悪くも「普通」の人が多い印象です。

 

ベンチャー案件や知財案件を売りにしており、六本木ヒルズにオフィスを構えるなど、ぱっと見では「今どき」な印象を受ける事務所です。しかし、近年急拡大した事務所であることもあり、その実態は、中小規模事務所の頃の性質を色濃く残した、コテコテの日系企業のような事務所だと聞きます。

例えば、弁護士400人を超える規模になったにもかかわらず、いまでも毎年事務所全体での旅行があるというから驚きです。

2019年には、事務所の創立30周年を祝うため、有名作曲家に依頼して事務所の社歌(!)を作り、サントリーホールを貸し切って豪華なコンサートを開催したそうです。

 

また、四大と比べると弁護士報酬の値下げが激しいことで有名です。そして、その値下げは、パートナーが関与する時間を極力減らし、アソシエイトが中心になって案件をこなすことで何とか実現しているそうです。

また、弁護士の出身大学や成績の全体的なレベルは、四大に比べると少し劣ります(ただし、直近数年の入所者の経歴は四大とそん色ないので、この差は解消されていくと思います)。

そのため、すくなくとも現時点では、四大に比べて仕事の平均的なクオリティが多少劣ることは否めないと思います。

 

もっとも、すべての案件で最高のクオリティの仕事が求められるとは限らず、依頼者からすれば、1000万円で100点の仕事をするよりも、500万円で80点の仕事をした方がありがたいこともあります。

また、アソシエイトとしては、自分が中心となって案件をこなすことで、四大よりも多くの経験値を得られる可能性があります。

そのため、ビジネスの観点やアソシエイトの成長の観点からは、TMIが四大に劣っているとまで言えないと思います。

 

また、上記のとおりTMIはベンチャー案件や知財案件などを売りにしており、そのような案件ではかなりのプレゼンスを有していると思います。

ベンチャーキャピタルファンドやデータプライバシーに関する会社を自ら設立するなど、法律事務所としては異例ともいえる取り組みも行っており、今後それらの分野でのプレゼンスがますます大きくなることも予想されます。

 

給与は固定給+ボーナスで、固定給部分が毎年増えていく方式です。四大と比べると固定給の金額が数百万円ぐらい低いと言われており、これも採用活動で四大に後れを取る原因になっています(初任給でいうと、四大が1200万円ぐらいでTMIが1000万円ぐらいでしょうか)。

もっとも上記のとおり、いまのところは「常に最高のクオリティの仕事をして高い報酬を請求する」という方針ではないようなので、そもそも四大に採用で競り勝つつもりはないのかもしれません。

 

また、パートナーへの就任も、いまのところ四大ほど難しくはないと聞きます。

 

いい人たちと一緒に、事務所内での人間関係を大切にしつつ、給料の高さよりも弁護士としての総合的な成長を重視したいと考えている人には、TMIが向いているかもしれません。