法律の基礎①

第1章 法律とは何か

 

1 形式的意味の法律と実質的意味の法律

 

「法律」という言葉には2つの意味があります。

1つ目の意味は、国会により制定された「法律」という名前の法規のことです。この場合、その他の法規(憲法政令など)は含みません。この意味で用いられる場合の法律を「形式的意味の法律」といいます。

2つ目の意味は、法規範全般のことです。つまり、憲法政令などの法規範をすべて含めて「法律」と呼ぶ場合のことです。この意味で用いられる場合の法律を「実質的意味の法律」といいます。

 

日常生活で「法律を守りましょう」などと言うときは、普通は政令なども含みますので、実質的意味の法律を指します。一方で、ニュースで「国会が新たな法律を制定した」などと言うときは法律という名前の法規のことを意味しますので、形式的意味の法律を指します。

本記事では特別の断りのない限り、「法律」と言う場合には形式的意味の法律、つまり「法律」という名前の法規のことを意味します。

 

2 法律は「六法」だけではない

 

法律に詳しくない方でも、「六法全書」という言葉は聞いたことがあるかもしれません。六法全書とは、基本的な6つの法律(六法)に加えて、六法に関連する法律とその他の重要な法律を掲載した法規集のことです。有斐閣という出版社から出版されています。そのほかにも、「ポケット六法」、「デイリー六法」など、六法全書のコンパクト版のようなものや、「税務六法」「会計監査六法」など、特定の職種向けの法規集も存在します。

「六法」には、①憲法、②民法、③刑法、④商法(会社法)、⑤民事訴訟法、および⑥刑事訴訟法が含まれます。会社法はかつて商法の一部でしたが、2005年の法改正により別の法律になりました。昔の名残で、「六法」というときには商法と会社法を1つとして数えます。六法は日本の司法試験の試験科目にもなっており、最も基本的な6つの法律ということができます。

 

もっとも、六法全書に六法以外の法律が掲載されていることからも分かるとおり、日本には六法以外にも沢山の法律が存在します。

例えば、賃貸借契約には民法のほか「借地借家法」という法律が適用されますし、労働関係の法律には「労働基準法」、「労働契約法」、「最低賃金法」、「男女雇用機会均等法」などがあります(「労働法」という名前の法律は存在しません。)。また、税務関係の法律には「所得税法」、「法人税法」、「相続税法」、「消費税法」などがあります。ほかにも、「弁護士法」、「公認会計士法」、「医師法」など、特定の職業についての資格や権限を定めた法律もあります。祝日は「国民の祝日に関する法律」という法律によって決められています。これらは沢山の法律のごく一部にすぎません。総務省が公表しているデータによれば、日本には2000個以上もの法律が存在しています。

 

3 法律を制定するための手続き

 

法律の制定方法は、憲法59条に定められています。憲法59条1項によれば、法律案は、衆議院参議院の両議院で可決したときに法律となります。

 

憲法59条1項

法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。

 

そして、衆議院参議院のいずれについても、3分の1以上の議員が出席し、出席議員の過半数が賛成すれば議案を可決することができます(憲法56条)。つまり、両議院のそれぞれにおいて、3分の1以上の議員が出席した会議で、出席議員の過半数が法律案に賛成すれば法律が成立することになります。

 

では、衆議院参議院で意見が分かれた場合はどうなるのでしょうか。この場合については、憲法59条2項が衆議院の優越を認めています。

 

憲法59条2項

衆議院で可決し、参議院でこれと異なった議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。

 

憲法59条2項によれば、衆議院が可決した法律案を参議院が否決した場合であっても、衆議院が出席議員の3分の2以上の賛成をもってその法律案を再び可決すれば、法律が成立します。

このように、衆議院参議院よりも強い権限が認められているのは、衆議院議員の場合にはその任期(4年)が参議院議員の任期(6年)よりも短く、かつ衆議院の解散によってさらに短い期間で入れ替わる可能性があることから、衆議院の方が参議院よりも国民の意思を反映しやすいためです。なお、衆議院議員の任期は憲法45条、参議院議員の任期は憲法46条に定められています。

 

成立した法律は、天皇により公布されます(憲法7条1号)。「公布」とは、成立した法律や命令を一般に周知するため、国民が知ることのできる状態に置くことをいいます。

法律を公布する方法は憲法や法律で定められていませんが、慣例上、官報に掲載する方法で行われます。「官報」とは、政府の発行する新聞のようなものです。官報販売所で入手できるほか、国立印刷局のホームページ(https://kanpou.npb.go.jp/)で、直近30日間分の内容が無料で閲覧できるようになっています。官報には成立した法令以外にも、会社の解散公告や決算公告なども掲載されます。見たことがない方はこの機会に一度見てみると面白いかもしれません。

 

法律が実際に適用されるようになることを「施行」といいます。「せこう」と「しこう」の2通りの読み方があります(どちらの読み方をしても大丈夫です。法律の専門家は「せこう」と読む傾向がありますが、ニュースなどでは「しこう」と読まれる傾向があります)。

通常、法律は公布から一定の期間を置いてから施行されますが、公布の日から施行される法律もあります。1つの法律であっても、部分ごとに施行日が分かれている場合もあります。そのため、現在適用されている法律を確認するためには、新しい法律が公布されているかだけではなく、その法律(の関係する部分)がすでに施行されているかも確認しなければなりません。法律の施行日は、通常、その法律の後ろの方に「附則」という形で定められています。