法律の基礎③

5 一般法と特別法

 

法律には様々な区分がありますが、ここでは、一般法と特別法の関係について簡単にご説明します。

 

一般法とは、ある分野において一般的に適用される法律のことをいいます。一方、特別法とは、その分野のうち特定の領域または事項について、特別に適用される法律のことをいいます。ある事項について一般法と特別法の両方が適用される場合、特別法が一般法に優先して適用されます。

 

一般法と特別法の典型例は、民法と商法です。民法が一般法、商法が特別法の関係にあります。また、例えば賃貸借契約については、一般法である民法に加えて、特別法である借地借家法も適用されます。

 

一般法と特別法の関係は相対的なものです。民法との関係では商法は特別法ですが、ある特定の種類の商人や商行為についてのみ適用される法律があれば、その法律との関係では商法が一般法となります。法律の中に「この法律は一般法です」とか、「この法律は○○法の特別法です」などと書いてあるわけではありません。

 

したがって、ある事項について適用される法律がないかを検討するときには、適用されそうな法律を1つ見つければ足りるというわけではなく、その他に適用される特別法がないかも確認しなければなりません。

 

6 法律の用語に解釈を加えなければならない場合

 

法律は、社会で守られるべきルールを定めたものです。法治国家においては、ある人と別の人との間で争いが起これば、最終的には法律に従ってどちらが正しいのかを決めることになります。

しかし、法律がいつも明確にルールを定めているとは限りません。ある法律が適用されるか否かを判断するためには、その法律の用語に解釈を加えなければならない場合が少なくありません。

 

・法律の用語解釈の例‐民法177条の「第三者

 

法律の用語に解釈を加えなければならない場合の典型例として、民法177条を適用する場合があります。民法177条は、不動産に関する物権の取得、喪失および変更については、登記をした後でなければ第三者に対して主張することができない旨を定めています。

 

民法177条

不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

 

「物権」とは、物を支配する権利をいいます(第3章で解説します)。また、登記とは、不動産の持ち主などを役所に登録して、権利関係を公に明らかにする制度のことをいいます。登記されている事項は、各地域の法務局で確認することができます(なお、実際には「不動産登記」、「船舶登記」、「債権譲渡登記」など色々な種類の登記がありますが、ここでは説明の便宜上、登記といったら不動産登記のことを意味することにします)。

 

つまり、民法177条は、不動産に関する物権を取得したり喪失したりしても、そのことを法務局に登録して公に明らかにしない限り、「第三者」に対して、「それは私の不動産です」、「それはもう私の不動産ではありません」などとは主張できない、ということを定めているのです。

 

民法177条が適用される典型的な場面は、土地の二重譲渡があった場合です。例えば、Xという土地があったとします。AさんがBさんにX土地を売却した後、さらにAさんがCさんに同じX土地を売却した場合、民法177条に従えば、BさんはCさんよりも先に登記しない限り、Cさんに対して「X土地は私のものです」と主張できないことになります。

 

しかし、「第三者」とは、どこまでの人を含むのでしょうか?例えば、上記の例でCさんが、AさんがBさんにすでにX土地を売却したことを知りながらX土地を購入した場合、BさんにとってCさんは、登記をしなければ権利を主張できない「第三者」に当たるでしょうか?また、CさんがBさんに嫌がらせをするためにX土地を購入した場合はどうでしょうか?

民法177条には「第三者」としか書いてないため、このような場合でもCさんがBさんにとっての「第三者」に当たるのかを解釈しなければなりません。

 

この点について、裁判所は、民法177条にいう第三者とは、「当事者もしくはその包括承継人以外の者で、不動産物権の得喪及び変更の登記欠缺を主張する正当の利益を有する者をいう」と解釈しています(「欠缺」は「けんけつ」と読み、ある要件が欠けていることを意味します)。

そして、先行する不動産売買があったことを知りながら同一の不動産を購入したにとどまる人は「第三者」に含まれるものの、先行する不動産売買の買主を困らせる目的で同一の不動産を購入した人(「背信的悪意者」といいます)は、「登記欠缺を主張する正当の利益を有する者」とはいえないとして、「第三者」に当たらないと解釈されています。

 

したがって、上記の例でいえば、BさんにすでにX土地を購入したことを知りながらCさんがX土地を購入したとしても、CさんはBさんにとって「第三者」に当たるため、Bさんは登記しない限り、Cさんに対してX土地の所有権を主張することができません。しかし、CさんがBさんを困らせる目的でX土地を購入したのであれば、CさんはBさんにとって「第三者」には当たらないため、BさんはCさんに対して、登記しなくてもX土地の所有権を主張することができます。

 

このように、法律の規定を知っていれば紛争を解決することができるというものではなく、場合によっては、その法律の用語がどのような意味なのかを解釈する必要があるのです。

 

・法律の用語の解釈方法

 

法律の用語の解釈に画一的な方法はありません。しかし、いくつか使うことのできるテクニックはありますので、その一部を紹介したいと思います。

 

まず、その法律自体に用語の定義が記載されている場合があります。この場合には、法律の用語に独自の解釈を加える必要はなく、定義のとおりに理解すれば足ります。例えば、会社法2条1号は、「会社」とは「株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社をいう」と定めています。この規定を読めば、会社法の中で使われる「会社」という用語に宗教法人などが含まれないことを理解することができます。

 

法律に用語の定義が記載されていない場合、まずはその用語の一般的な意味を考えます。例えば、先述した民法177条の「第三者」という用語であれば、一般的な意味から、基本的には当事者以外の人を意味するのだと理解できます。

もっとも、法律特有の言い回しもあるため注意が必要です。例えば、法律用語では、「善意」とはある事実を知らないことを意味し、「悪意」とはある事実を知っていることを意味します。「先行する売買について善意の第三者」という場合は、先行する売買があったことを知らない第三者のことを意味します。

 

法律の用語を解釈するため、その法律が制定される過程における議論を参照することもあります。すでにご説明したとおり、法律を制定するのは国会です。そのため、法律に定義が書かれていなくても、国会がその用語の意味を明確に認識して法律を制定したのであれば、国会の認識どおりに用語を理解すべきだといえます。国会の認識は、その法律について議論した会議の議事録などから確認することができます。

また、最終的に法律を制定するのが国会だとしても、法律案の作成には、その法律の運用に従事することになる省庁(いわゆる所管省庁)も関与しています。そのため、所管省庁が公表する資料も、国会の認識と必ず一致するわけではありませんが、法律の用語を解釈するうえでかなり参考になります。

 

ある特定の場合にその法律が適用されることが法律の中に明記されている場合、それ以外の場合にはその法律が適用されないのだと解釈できることがあります。このような解釈を「反対解釈」といいます。例えば、民法737条1項は「未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない。」と定めています。この規定の反対解釈から、成年の子が婚姻をする場合には父母の同意を得る必要がないということを理解することができます。

ただし、反対解釈が常に適切であるとは限りません。例えば、「土日は会社が休みである」と言った場合、反対解釈により平日は仕事があるのだろうと推測することができますが、もしかしたら水曜日も休みかもしれません。これと同じで、法律の用語についても、反対解釈が適切かどうかはその規定の趣旨、他の規定の内容、立法過程の議論なども踏まえてよく検討する必要があります。

 

法律の規定を適用する場合には、以上のようなテクニックを使いながら、その規定ごとに妥当な解釈を探求する必要があります。なお、以上は法解釈の一例にすぎません。法解釈は、それだけで一冊の本が書けるほど複雑で奥が深いです。