同性婚について考えてみた②

前回の記事では、2021年3月17日に札幌地裁で下された同性婚に関する判決をご紹介しました。

私はこの札幌地裁判決にかなり納得しており、判決の立場を支持しています。

つまり、同性カップルが婚姻と同じような利益を得られる制度を作らないと、法の下の平等を定める憲法14条1項に違反するという立場です。

(なお、「婚姻」ではなく「婚姻と同じような利益を得られる制度」としているのは、公式にパートナーとして認められ利益を受けられる制度があれば、呼び方は「婚姻」ではなくても足りると考えているためです。「婚姻」という呼び方にこだわる方もいるでしょうが、私は呼び方は本質ではないため何でもいいと思っています。「婚姻」という呼び方を使うことに反対するわけでもありません。)

 

この判決でも述べられているとおり、憲法14条1項は合理的理由のない区別を禁止しています。そのため、憲法14条1項に違反するかを判断するためには、異性カップルに婚姻を認める一方で同性カップルには婚姻を認めないという区別について、合理的理由があるかが検討されなければなりません。

 

そこで、今回は、同性婚に反対する立場からの意見を1つ1つ検証し、婚姻について異性カップルと同性カップルを区別する「合理的理由」があるのかを説明したいと思います。

 

0.「同性カップルを邪魔しなければ足りるのではないか。婚姻を求める理由が分からない」という意見

 

男女が結婚した場合、例えば以下のような利益を得ることができます(あくまで一例です)。

  • 配偶者の相続権が認められる
  • 配偶者の相続税額が軽減される
  • 所得税配偶者控除が認められる
  • 同じ戸籍に入ることができる
  • 一方の配偶者が外国籍の場合、配偶者ビザを取得することができる

 

しかし、現行法上、同性カップルはこのような利益を得ることができません。例えばパートナーに財産を残したいと考えたとしても、わざわざ遺言や遺贈の手続きを行わなければなりませんし、そのような手続きを行ったとしても親族らから異議を述べられる可能性があります。そのため、婚姻が認められることは、同性カップルにとっても重要なのです。

 

1.「婚姻は子供をつくり育てることを保護するための制度である。同性カップルは子供をつくることができないため婚姻を認めるべきではない」という意見

 

確かに、同性カップルは基本的には子供をつくることができません。そして、「婚姻は子供をつくり育てることを保護するための制度である」という意見は、一見すると不合理とまでは言えないようにも思われます。

しかし、異性カップルであっても子供をつくることができない場合はあります。また、異性カップルが自ら子供をつくらないことを選択する場合もあります。そして、現行法上、子供を持たない異性カップルにも婚姻は認められています。「不妊カップルや子供をつくる意思のないカップルに婚姻を認めるべきではない」などと主張する人はほとんどいないでしょう。

つまり、「婚姻は子供をつくり育てることを保護するための制度である。同性カップルは子供をつくることができないため婚姻を認めるべきではない」という意見は、現在の制度と矛盾するのです。したがって、この意見も妥当とは思えません。

なお、さらに言うと、同性カップルであっても養子を受け入れて育てることは可能です。したがって、同性愛者の婚姻を認めることで子供の数が増える可能性もあります。

 

2.「同性カップルの婚姻を認めると少子化につながる」という意見

 

現在までの研究によれば、同性愛者か異性愛者かという性的指向は先天的なものであり、後天的に変化するものではないという見解が支配的なようです。

そうだとすれば、同性愛者間の婚姻を禁止したからといって、同性愛者が異性と結婚して子供をつくるようになるとは思えません。また、逆に、同性愛者間の婚姻を認めたからといって、異性愛者が同性と結婚するようになって子供の数が減るとは思えません。

むしろ、同性カップルであっても養子を受け入れて育てることは可能なので、同性愛者の婚姻を認めることで、社会全体で育てることのできる子供の数が増える可能性もあります。

したがって、現在の知見を前提にする限り、「同性カップルの婚姻を認めると少子化につながる」という意見も妥当とは思えません。

 

3.「同性愛は精神疾患であるため、同性婚を認めるべきではない」という意見

 

民法の制定当時は、同性愛が精神疾患の一種で治療すべきものと考えられていたようです。

しかし、平成4年頃までに、同性愛は精神疾患ではないとする知見が確立し、さらに、性的指向は人の意思によって変更できるものではなく、また後天的に変更可能なものでもないことが明らかになったそうです。

そのため、現在の医学上は、同性愛は精神疾患ではなく、人種や性別と同じような先天的なものであると考えられています。

したがって、現在の知見を前提とする限り、「同性愛は精神疾患であるため、同性婚を認めるべきではない」という意見も妥当とは思えません。

 

4.「同性婚を認めると伝統的な家族観が破壊される」という意見

 

同性婚を認めると伝統的な家族観が破壊される」と感じる人がいるのは理解できます。しかし、伝統的にそのような制度になっていたという事実は、その制度の合理性の根拠にはならないのではないでしょうか。

例えば、身分や性別によって選挙権の有無が異なっていた時代もありましたが、現在、そのような制度を支持する人は少ないと思います。

また、昔は子供のアレルギーを避けるため、1歳まではピーナッツや卵を食べさせないことが推奨されていましたが、現在では、症状がないのであれば5ヶ月ぐらいから徐々に摂取したほうがよいと考えられているそうです。

他にも、昔は教師が生徒に指導する際にある程度の暴力を用いることが容認されていましたが、現在同じことをすれば問題になることがほとんどでしょう。

このように、従来の制度や考え方が合理的とはいえない場合は少なくありません。制度を変更してしばらくすれば、変更後の制度が社会に受け入れられるようになることも多いです。従前の制度が不合理なのであれば、それを変更することが必要になります。

つまり、「同性婚を認めると伝統的な家族観が破壊される」という意見は、「現在同性婚が認められていないからこれからも同性婚を認めるべきではない」という意見に過ぎず、同性婚を認めないことの合理的理由になるとは思えません。

 

まとめ

 

以上のように、同性婚に反対する立場からの意見は、いずれも婚姻について異性愛者と同性愛者を区別する合理的理由になるとは思えません。現在の知見を前提にすると、同性婚を認めても具体的な問題が生じるとは思えないのです。

 

そのため、最初に書いたとおり、同性カップルが「婚姻」と同じような利益を得られる制度を作らないと、平等権を定める憲法14条1項に違反すると考えています。