企業法務弁護士の留学事情①

一定以上の規模の弁護士事務所に所属している弁護士のなかには、入所して3年目から7年目ぐらいまでの間に、事務所の援助を得て留学する人が少なくありません。例えば五大法律事務所であれば、本人が希望すれば基本的には留学に行かせてもらえると思います。

 

私もアメリカのロースクールへの留学を経験しましたので、留学について多少の知識と経験があります。そこで、今回は企業法務弁護士の留学事情について書きたいと思います。

なお、古い情報や不正確な情報が含まれているかもしれませんのでご留意ください。

 

  • 留学先

留学先として圧倒的に人気なのはアメリカのロースクール法科大学院ですが、イギリスのロースクールに行く人もある程度います。また、アメリカやイギリスのMBA(経営大学院)に留学する人もいますし、稀にその他の国の大学院に留学する人もいます。

 

アメリカやイギリスのロースクールには3年コース(JD)と1年コース(LLM)があります。LLMは海外ですでに法律を勉強した人向けのコースです。そのため、弁護士が留学する場合にはLLMに留学するのが通常です。

 

アメリカのロースクールに留学することのメリットの1つは、卒業後にアメリカの一部の州の司法試験を受験できることです(一番人気なのはNY州の司法試験です)。

ただし、カリフォルニア州の司法試験は、日本の弁護士であればアメリカのロースクールを卒業しなくても受けることができます。そのため、アメリカ留学に明確な優位性があるのかは怪しいです。多くの弁護士が留学しているため情報を集めやすいというのはあると思います。

 

現在では、「アメリカ(イギリス)のロースクールに留学した」という事実のみでは他の弁護士と差別化することが難しいため、MBAに留学する人や、あえて留学しないことを選択する人も増えてきている印象があります。

 

  • 留学費用

アメリカのロースクールに留学する場合、学費だけで700万円ぐらいかかるのが通常です。例えばハーバード大学LLMの場合、2021年の学費は6万7720ドル(1ドル=110円計算で、744万9200円!)とされています。

それに加えて保険料や生活コストもかかります(東西海岸は家賃も高いです)。LLMが始まる前にサマースクールに参加する場合には、その費用も必要になります。

地域にもよりますが、学費とその他の費用を合わせて、1年間で1千万円以上が必要になることが多いと思います。

 

イギリスのロースクールの場合、アメリカのロースクールよりも学費が大幅に安いことが通常です。例えばUniversity College LondonのLLMの場合、2021年の学費は2万8500ポンド(1ポンド=153円計算で、436万500円)とされています。

 

弁護士が留学する場合、所属事務所がどれぐらい経済的な援助をしてくれるかは事務所によります。例えば四大法律事務所の場合には、700万円ぐらいの固定額のみが支給されるそうです。そのため、学費の安いイギリスに留学すれば、経済的にかなり楽になると思います。

アメリカの弁護士資格を取りたければ、イギリスのLLM卒業後にカリフォルニア州の司法試験を受けることもできます。

 

一方、学費をすべて払ってくれる事務所もあります。その場合には、アメリカに留学することの負担はかなり軽減されると思います。

 

  • LLM留学に必要な英語力

どれぐらいの英語力が要求されるかは、留学先の大学によって異なります。英語力を証明するための資料は、基本的にはTOEFLかIELTSのいずれかです。

 

アメリカの大学でいうと、ハーバードやスタンフォードといったトップ校のLLMに留学するためには、TOEFLで120点満点中115点近くが必要になると言われています。帰国子女ではない日本人にとって、この点数を取るのは至難の業です。人によっては日本の司法試験に合格するよりも難しいと思います。

 

それ以外の学校であっても、U.S. Newsが公表しているロースクールランキングのトップ20に入るような大学の場合には、TOEFLで90点台後半から105点程度を要求されることがほとんどです。

そのため、私の知る限り、アメリカへの留学の場合にはTOEFLで100点前後をとって留学する弁護士が多いです。

 

もっとも、大学によっては、日本で経験を積んだ弁護士や企業の法務担当者であれば、英語の点数がある程度低くても入学を許可してくれる場合があります。英語が苦手であっても諦めずに応募すれば、意外にも合格できることも少なくないようです。

私の知り合いの中には、TOEFL 80点台でTOP14に入るような大学に合格した弁護士もいます。

 

TOEFLで100点を取るのは多くの日本人にとってかなり大変です。人によっては1年以上の勉強期間が必要になります。

もっとも、TOEFLはリーディング、リスニング、ライティング、スピーキングの4つのセクションに分かれており、それぞれに同じ配点(30点)があるため、英語を流ちょうに話せなくても100点を取ることはできます。そのため、TOEFLで高得点を取っていても英語を話すのは苦手という人は少なくありません。

 

英語が得意な状態で留学するのと苦手なまま留学するのでは、得られるものが非常に大きく違います。留学する以上、志望校にかかわらず全力で英語を勉強しておくことを強くお勧めします

 

  • 留学後の研修

 LLMの卒業後は、英語圏の法律事務所で10か月~1年間ほど研修するのが人気です。

もっとも、以下の理由等から、近年では海外の法律事務所で研修しない弁護士も増えてきています。

  • 海外の法律事務所で研修しても他の弁護士と差別化することが難しくなってきたこと
  • 海外の法律事務所での研修よりも日本で実務に従事していた方が学ぶことが多い場合があること
  • 日本人を研修生として採用してくれる法律事務所が減ってきたこと

私の友人の中にも、LLM卒業後すぐに帰国して官庁や企業に出向することを選んだ弁護士が何人かいます。