大手法律事務所への就活事情

法律事務所には、ざっくりと分けると以下のような種類があります。

 

  1. 大手法律事務所(五大法律事務所)
  2. 中規模・準大手の企業法務系法律事務所(弁護士が数十人~150人程度)
  3. ブティック系法律事務所(特定の分野に強い小・中規模の企業法務系法律事務所)
  4. 外資系法律事務所
  5. 新興形の中・大規模法律事務所
  6. 小・中規模の一般民事系法律事務所

 

私は1に所属していたことがありますし、現在は2に所属しています。そこで、今回はそれらの就活事情について書いてみたいと思います。

 (なお、「Lawyer’s INFO」という法律事務所に関する口コミ投稿サイトもあるので、ご覧いただくと面白いかもしれません)

 

1 就活の時期

 

五大法律事務所の採用活動は、司法試験が終了してすぐに始まり、それから1か月間程度で終わるのが通常です。

 

例年であれば、司法試験が5月中旬に実施され、5月下旬から応募と個別面接が始まり、7月初旬にはすべての面接が終了します。

司法試験の合格発表は9月なので、司法試験の合否が判明する前に採用活動が終了するということです。

(2020年はコロナウイルスの影響で司法試験の日程が8月中旬になったので、おそらく8月下旬から採用活動が始まるのではないかと思いますが、本日時点でまだ日程は発表されていません。)

 

ただし、魅力的な応募者が遅れて応募してきた場合には、いったん採用活動が終了した後であっても採用することがあります。

 

中規模・準大手の採用時期も、多くの場合は五大法律事務所と同様です

ただし、中規模事務所の場合、新規採用を毎年行っているとは限りませんし、そもそも原則として中途採用しか行っていない場合もあります。

 

2 採用基準

 

五大法律事務所の採用活動において重視される点は、

 

  1. 出身大学・大学院のレベル
  2. 大学・大学院時代の成績
  3. 予備試験合格の有無(合格している場合にはその成績も)
  4. 特殊経歴・特殊技能の有無
  5. 年齢
  6. (人柄)

 

です。

 

1と2のとおり、いい大学・大学院をいい成績で卒業したことは、五大の採用活動において非常に重視されます。実際、五大に入所する弁護士の大半は東大、京大、早慶のいずれかの出身者です(一橋は学生の数が多くありませんが、早慶と同等以上の扱いな気がします。続いて多いのは旧帝大と中央大でしょうか)。

 

また、3のとおり、予備試験に合格しているか否かも非常に重視されます。若いうちに予備試験に合格した人であれば、多少出身大学のランクや成績が劣っていても五大に入れる可能性は高くなります。

 

4の特殊経歴というのは、例えば有名企業で働いた経験を有していることです。有名企業で働いていた場合、その企業とのコネを期待できますし、その業界特有の知識や経験を活かせる可能性もあります。仕事のノウハウやマナーをすでに身に着けている点も魅力的です。

 

特殊技能というのは、例えば語学堪能であることです。企業法務系の事務所では英語や中国語を使う仕事もあるので、そのような言語を流ちょうに扱えることは魅力的です。また、その他の言語を扱えるのであれば、その言語を使用している国に関連する仕事を開拓できるかもしれません。

 

5の年齢は、できるだけ若いほうが有利です。あまり年齢が高いと五大の激務に耐えられない可能性もありますし、上としては仕事を振りにくくなります。

ただし、上記のように社会人経験がある人であれば、多少年齢が高くても障害にならない可能性はあります。

 

最後に、6の人柄です。あまりに性格に難があると、クライアントを怒らせてしまうかもしれませんし、将来自分でクライアントを開拓することが難しいかもしれません。また、チームで仕事をすることができない人かもしれません。さらに、何か問題を起こして事務所の評判を傷つける可能性もあります。

ただし、採用活動中に人柄を完全に見抜くことはできませんし、マナー等については働き始めてから教育すればよいので、若くて成績優秀な人であれば、多少人柄に問題があっても大きなマイナスにはなりません。

 

中規模・準大手の事務所の採用基準も、基本的にはこれと同様です。

ただし、中規模事務所の場合には大手よりも内部の人間関係が密になるので、大手に比べると人柄の重要度が増すと思います。

 

なお、イケメンや美女を優先的に採用しているとウワサされる事務所もありますが、真偽のほどは不明です(笑) ただ、見た目がクライアントの心情に与える影響は馬鹿にできないので、他の能力が同程度なら見た目がいい方が有利だとは思います。

 

3 採用プロセス

 

五大法律事務所の採用プロセスは、

 

  • サマークラーク(サマクラ)、ウインタークラーク(冬クラ)、スプリングクラーク(春クラ)を通じて、有力な候補者を見つける
  • 司法試験終了後、入所希望者が応募する
  • 応募者の中から採用基準に合う人を選定し、個別面接を行う(サマクラ・冬クラ・春クラの参加者には、応募してなくても事務所側からコンタクトをとる場合がある。面接なしで電話で採用オファーを出す場合もある)

 

というシンプルなものです。

 

サマクラ・冬クラ・春クラ(以下まとめて「サマクラ」)とは、学生に法律事務所での業務を体験してもらう制度のことをいいます。要するにインターンシップのことです。

期間は2日~5日間程度で、給料も1日1万円ぐらい出ます。

採用活動の一環であり、法律事務所側が魅力的な採用候補者を探すことに主眼があります。

 

最近では、五大法律事務所のサマクラには以下の4種類があるようです。

 

  • 学部生(3年生以上)の予備試験受験予定者または予備試験合格者を対象に、8月~9月に行うサマクラ(※TMI以外)
  • 法科大学院生を対象に、8月~9月に行うサマクラ
  • 法科大学院生を対象に、2月~3月に行う春クラ(※TMIのみ)
  • 予備試験合格者を対象に、11月~2月に行う冬クラ

 

サマクラ中は、学生に法律のリサーチをしてもらったり、メモ(検討結果をまとめた書面)をドラフトしてもらったりします。

しかし、学生の仕事が役に立つことはほとんどありませんし、数日間で出来ることは限られます。

そのため、実際には、食事に連れて行ったり、弁護士の講義を聞いてもらったりして、事務所側が学生をもてなす時間の方が長いと思います。その中で、事務所側は、学生の頭の回転の速さや人となりを確認するとともに、学生に事務所に対するいい印象をもってもらえるよう頑張るわけです。

もちろん、リサーチやメモのセンスがよければ大きな加点にはなります。

 

サマクラの結果、優先順位の高い候補者であると判断された場合には、採用活動が始まってすぐ事務所側から電話があり、できるだけ早い時期に個別面接の日程が組まれます。人によっては、面接せずに電話で採用オファーを受ける場合すらあります。

魅力的な候補者は他の事務所との取り合いになるので、事務所はできるだけ早くオファーを出して採用を決定したいのです。

 

中規模・準大手の法律事務所の場合も、個別面接を行って採用を決める点は五大法律事務所と変わりません。もっとも、サマクラを行っている事務所は限られます。

五大に比べて情報が出回りにくいので、「アットリーガル」などの情報サイトを利用したり、事務所のホームページを確認するなどして、積極的に情報収集を行う必要があります。

 

4 個別面接の概要

 

五大法律事務所の個別面接は、学生1人に対して弁護士3~4人ぐらいで、個室で行うのが一般的です。もっとも、厳密には決まっていない事務所もあり、途中で弁護士が入れ替わったり抜けたりすることもあります(企業のように採用活動の専任者がいるわけではないので、みんな仕事をこなしながら採用活動を行っています)。

 

質問される内容は、興味のある分野、趣味、学生時代の生活、親族中の法曹関係者の有無などですが、これも厳密には決まっていない事務所が多いと思います。むしろ、候補者に対して何か質問はないかと尋ねる時間の方が長い場合もあります。

上記のとおり、五大の採用基準において候補者の人柄が占めるウエイトは大きくなく、一見して大きな問題がなければ、基本的には書面上の成績順に採用が決まります。そのため、面接の内容はそこまで重要ではないのです。

 

面接の日程は、原則として優先順位が高い候補者から順番に決まります。

 

そして、優先順位が高い応募者の場合には、最初の面接で採用オファーを出す場合があります。サマクラに参加したことのある応募者の場合には、このパターンが多いです。また、近年は五大が大量採用を行っていたので、サマクラに参加していなくても即オファーを出す場合が少なくなかったと聞きます。

他の事務所と取り合いになっている候補者の場合には、面接後に飲み会に連れていき、酔ったすきにオファーを受諾するよう促したりもします(笑)

 

優先順位が中程度の応募者の場合には、2~3回面接を行い、優先順位の高い応募者の採用状況を見て、採用枠が残りそうな場合にオファーを出します。もっとも、面接してみて好印象だった場合には、すぐにオファーを出す場合もあります。優先順位に応じて、飲み会に連れて行ったり連れて行かなかったりします。

 

優先順位が低い応募者の場合には、比較的遅い時期に最初の面接が入ります。そして、何回か面接しつつ、その時点で有力な応募者を他の事務所に取られてしまっており、採用枠が残りそうな場合にオファーを出すことがあります。飲み会に連れていく候補者の数は限られます。

 

飲み会で使うお店は高級なお店ばかりで、高級焼肉や料亭にも連れて行ってもらえます。優先順位の高い候補者であれば、二次会で高級ホテルのおしゃれなバーに連れて行ってもらえることもあります。

 

私も就活生時代に何回か飲み会に連れて行ってもらいましたが、酔っぱらって寝ているパートナーがいたり、勝手にドンペリを注文するアソシエイトがいたり、三次会でこっそりキャバクラに連れて行ってくれる弁護士がいたりと、とても楽しかったのを覚えています(笑) 企業では考えられませんね。

 

弁護士は客前で話さねばならない商売です。営業で飲みに行くこともあるかもしれません。ですので、緊張して口数が少なくなるのはマイナスであり、あまり気負わずに楽しく話せた方が好印象だと思います。

 

中規模・準大手の法律事務所の場合は、五大法律事務所ほど大人数を採用するわけではないため、ひとりひとりの新人の重要度が高くなります。そのため、よほど魅力的な応募者でない限り、最初の面接ですぐにオファーを出すことはないと思います。

もっとも、サマクラを行っている事務所であれば、サマクラ参加者に対して最初の面接でオファーを出すこともあります。

 

また、中規模・準大手でも面接後に飲み会に行くことがありますが、五大ほどきらびやかなお店には行かないのが通常だと思います(笑)

 

なお、弁護士の就職については以下のような本も出ていますので、参考になるかもしれません。