法律の基礎②

4 法律以外の法規範

 

「法律」以外の法規範についても簡単に触れておきます。「法律」以外の法規範には、憲法政令、省令、内閣府令などがあります。

 

憲法とは、法律よりも上位に位置する国の最高規範のことです(第2章で解説します)。政令、省令、内閣府令は、それぞれ以下のようなものです。

 

  • 政令:内閣が、憲法または法律の規定を実施するために発する命令。主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連著し、天皇が公布する。法律の委任がない限り、政令には罰則を設けることはできない(憲法73条6号、74条、7条1号)。
  • 省令:各大臣が、主任の行政事務について、法律もしくは政令を施行するため、または法律もしくは政令の特別の委任に基づいて発する命令。省令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、または義務を課し、もしくは国民の権利を制限する規定を設けることができない(国家行政組織法12条1項・3項)。
  • 内閣府内閣総理大臣が、内閣府の主任の行政事務について、法律もしくは政令を施行するため、または法律もしくは政令の特別の委任に基づいて発する命令。内閣府令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない。(内閣府設置法7条3項・4項)

 

この説明を読んでもよく分からないと思いますので、具体例を見てみましょう。なお、以下の具体例は、あくまで政令や省令・内閣府令のイメージをつかんでいただくためのものにすぎませんし、細かい話なので、内容を覚えていただく必要はありません。「法律から政令や省令への委任はこんな感じで行われるのか」と大まかに理解していただければ結構です。

 

政令や省令の具体例

 

取締役会を設置している株式会社が株主総会を開催する場合、取締役は株主に対して、株主総会の招集通知を書面で送付しなければならないのが原則です(会社法299条1項・2項2号)。しかし、会社法299条3項は以下のとおり、電磁的方法(Eメールなど)で招集通知を送付することを例外的に認めています。

 

会社法299条3項

取締役は、前項の書面による通知の発出に代えて、政令で定めるところにより、株主の承諾を得て、電磁的方法により通知を発することができる。

 

会社法299条3項によれば、取締役は、政令で定めるところにより株主から承諾を得れば、Eメールなどの電磁的方法により株主総会の招集通知を送付することができます。つまり、株主から承諾を得る具体的な方法は政令に委任されており、会社法自体には書かれていないということです。これが、法律から政令への委任の例です。

 

この会社法の規定を受けて、「会社法施行令」という政令が、以下のように定めています。

 

会社法施行令2条1項

次に掲げる規定により電磁的方法により通知を発しようとする者(次項において「通知発出者」という。)は、法務省令で定めるところにより、あらかじめ、当該通知の相手方に対し、その用いる電磁的方法の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。

② 法第二百九十九条第三項(法第三百二十五条において準用する場合を含む。)

 

会社法施行令2条1項2号によれば、株主総会の招集通知を電磁的方法により送付したい取締役は、法務省令で定めるところにより、あらかじめ、招集通知の相手方に対して電磁的方法の種類と内容を伝え、書面または電磁的方法により承諾を得なければならないものとされています。

この規定により、電磁的方法による招集通知の送付について、株主から承諾を取得する方法がかなり明確になりました。しかし、この規定もさらに具体的な内容を省令(法務省令)に委任しているため、承諾の取得方法を完全に把握するためには、法務省令を見なければいけません。

 

この会社法施行令政令)の規定を受けて、「会社法施行規則」という法務省令の第230条が、「電磁的方法の種類及び内容」の具体的な内容を定めています(少し複雑な条文なのでここでは引用しません。インターネットで閲覧可能なので、興味がある方は読んでみてください)。

 

以上のように、法律が大まかな内容を定めたうえで、詳細な内容の決定を政令に委任し、政令がさらに詳細な内容の決定を省令や内閣府令に委任するということが頻繁に行われています。

 

では、なぜこのように回りくどい方法をとる必要があるのでしょうか?詳細な内容を定めるのであれば、最初から法律で定めればよく、政令や省令に委任する必要はないのではないでしょうか?

もちろん、この疑問にはちゃんとした答えがあります。技術や慣習は、時代とともに変化するものです。先ほどの例では、「電磁的方法」による招集通知の送付が問題になっていました。そして、「電磁的方法」の内容はまさに技術の発展により変化しやすいものです。今のところホームページへの掲載やEメールが主流ですが、最近はLINE、Skype、WhatsAppなどのメッセージアプリも同じぐらい普及しています。将来的にはさらに進歩した連絡方法が主流になるかもしれません。そうなった場合、「電磁的方法」による招集通知の送付方法に変更が生じる可能性があり、法律を改正しなければならないかもしれません。

 

しかし、すでにご説明したとおり、法律の改正には衆議院参議院の決議が必要になります。そして、両議院で決議を得るためには膨大な時間と費用が必要になります。そのため、いちいち法律の改正が必要になるとすると、時間がかかり過ぎて変化についていけなくなる可能性がありますし、費用もかさみます。

 

そこで、詳細な内容は政令や省令・内閣府令で定めることにしておけば、改正が必要になったとしても、法律の改正ほどの時間や費用がかからなくて済むのです。

 

また、最新の情報について議論する際には、国会で情報を集めて審議するよりも、その分野に詳しい担当省庁に任せた方が効率的です。この観点からも、変化しやすい事柄については、法律で定めるよりも政令や省令に委任した方が効率的なのです。