同性婚について考えてみた②

前回の記事では、2021年3月17日に札幌地裁で下された同性婚に関する判決をご紹介しました。

私はこの札幌地裁判決にかなり納得しており、判決の立場を支持しています。

つまり、同性カップルが婚姻と同じような利益を得られる制度を作らないと、法の下の平等を定める憲法14条1項に違反するという立場です。

(なお、「婚姻」ではなく「婚姻と同じような利益を得られる制度」としているのは、公式にパートナーとして認められ利益を受けられる制度があれば、呼び方は「婚姻」ではなくても足りると考えているためです。「婚姻」という呼び方にこだわる方もいるでしょうが、私は呼び方は本質ではないため何でもいいと思っています。「婚姻」という呼び方を使うことに反対するわけでもありません。)

 

この判決でも述べられているとおり、憲法14条1項は合理的理由のない区別を禁止しています。そのため、憲法14条1項に違反するかを判断するためには、異性カップルに婚姻を認める一方で同性カップルには婚姻を認めないという区別について、合理的理由があるかが検討されなければなりません。

 

そこで、今回は、同性婚に反対する立場からの意見を1つ1つ検証し、婚姻について異性カップルと同性カップルを区別する「合理的理由」があるのかを説明したいと思います。

 

0.「同性カップルを邪魔しなければ足りるのではないか。婚姻を求める理由が分からない」という意見

 

男女が結婚した場合、例えば以下のような利益を得ることができます(あくまで一例です)。

  • 配偶者の相続権が認められる
  • 配偶者の相続税額が軽減される
  • 所得税配偶者控除が認められる
  • 同じ戸籍に入ることができる
  • 一方の配偶者が外国籍の場合、配偶者ビザを取得することができる

 

しかし、現行法上、同性カップルはこのような利益を得ることができません。例えばパートナーに財産を残したいと考えたとしても、わざわざ遺言や遺贈の手続きを行わなければなりませんし、そのような手続きを行ったとしても親族らから異議を述べられる可能性があります。そのため、婚姻が認められることは、同性カップルにとっても重要なのです。

 

1.「婚姻は子供をつくり育てることを保護するための制度である。同性カップルは子供をつくることができないため婚姻を認めるべきではない」という意見

 

確かに、同性カップルは基本的には子供をつくることができません。そして、「婚姻は子供をつくり育てることを保護するための制度である」という意見は、一見すると不合理とまでは言えないようにも思われます。

しかし、異性カップルであっても子供をつくることができない場合はあります。また、異性カップルが自ら子供をつくらないことを選択する場合もあります。そして、現行法上、子供を持たない異性カップルにも婚姻は認められています。「不妊カップルや子供をつくる意思のないカップルに婚姻を認めるべきではない」などと主張する人はほとんどいないでしょう。

つまり、「婚姻は子供をつくり育てることを保護するための制度である。同性カップルは子供をつくることができないため婚姻を認めるべきではない」という意見は、現在の制度と矛盾するのです。したがって、この意見も妥当とは思えません。

なお、さらに言うと、同性カップルであっても養子を受け入れて育てることは可能です。したがって、同性愛者の婚姻を認めることで子供の数が増える可能性もあります。

 

2.「同性カップルの婚姻を認めると少子化につながる」という意見

 

現在までの研究によれば、同性愛者か異性愛者かという性的指向は先天的なものであり、後天的に変化するものではないという見解が支配的なようです。

そうだとすれば、同性愛者間の婚姻を禁止したからといって、同性愛者が異性と結婚して子供をつくるようになるとは思えません。また、逆に、同性愛者間の婚姻を認めたからといって、異性愛者が同性と結婚するようになって子供の数が減るとは思えません。

むしろ、同性カップルであっても養子を受け入れて育てることは可能なので、同性愛者の婚姻を認めることで、社会全体で育てることのできる子供の数が増える可能性もあります。

したがって、現在の知見を前提にする限り、「同性カップルの婚姻を認めると少子化につながる」という意見も妥当とは思えません。

 

3.「同性愛は精神疾患であるため、同性婚を認めるべきではない」という意見

 

民法の制定当時は、同性愛が精神疾患の一種で治療すべきものと考えられていたようです。

しかし、平成4年頃までに、同性愛は精神疾患ではないとする知見が確立し、さらに、性的指向は人の意思によって変更できるものではなく、また後天的に変更可能なものでもないことが明らかになったそうです。

そのため、現在の医学上は、同性愛は精神疾患ではなく、人種や性別と同じような先天的なものであると考えられています。

したがって、現在の知見を前提とする限り、「同性愛は精神疾患であるため、同性婚を認めるべきではない」という意見も妥当とは思えません。

 

4.「同性婚を認めると伝統的な家族観が破壊される」という意見

 

同性婚を認めると伝統的な家族観が破壊される」と感じる人がいるのは理解できます。しかし、伝統的にそのような制度になっていたという事実は、その制度の合理性の根拠にはならないのではないでしょうか。

例えば、身分や性別によって選挙権の有無が異なっていた時代もありましたが、現在、そのような制度を支持する人は少ないと思います。

また、昔は子供のアレルギーを避けるため、1歳まではピーナッツや卵を食べさせないことが推奨されていましたが、現在では、症状がないのであれば5ヶ月ぐらいから徐々に摂取したほうがよいと考えられているそうです。

他にも、昔は教師が生徒に指導する際にある程度の暴力を用いることが容認されていましたが、現在同じことをすれば問題になることがほとんどでしょう。

このように、従来の制度や考え方が合理的とはいえない場合は少なくありません。制度を変更してしばらくすれば、変更後の制度が社会に受け入れられるようになることも多いです。従前の制度が不合理なのであれば、それを変更することが必要になります。

つまり、「同性婚を認めると伝統的な家族観が破壊される」という意見は、「現在同性婚が認められていないからこれからも同性婚を認めるべきではない」という意見に過ぎず、同性婚を認めないことの合理的理由になるとは思えません。

 

まとめ

 

以上のように、同性婚に反対する立場からの意見は、いずれも婚姻について異性愛者と同性愛者を区別する合理的理由になるとは思えません。現在の知見を前提にすると、同性婚を認めても具体的な問題が生じるとは思えないのです。

 

そのため、最初に書いたとおり、同性カップルが「婚姻」と同じような利益を得られる制度を作らないと、平等権を定める憲法14条1項に違反すると考えています。

同性婚について考えてみた①

2021年3月17日、札幌地方裁判所において、同性カップルに婚姻から生じる法的利益を与えないことは憲法14条に違反する、とする判決が出されました。

 

NHKの記事

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210317/k10012919141000.html

 

この判決については様々な意見が述べられていますが、その多くは、「同性婚を認めないことを違憲とする判決が出た」という部分のみを見て、判決の内容をよく確認しないまま述べられているものだと思います。また、この判決は同性婚の是非について綿密に検討しており、私としてはかなり納得感のあるものでした。

そこで、今回はこの判決の概要をご紹介し、次回の記事において、同性婚についての私の考えを簡単に書かせていただこうと思います。

 

前提として、憲法14条1項と24条の内容は以下のとおりです。

第14条1項 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

第24条

1項 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

2項 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

 

【札幌地裁の判決の内容】

事案は、同性愛者カップルの原告らが、同性婚を認めていない民法と戸籍法の規定が憲法13条、14条1項、および24条に違反するとして、国家賠償法に基づき、国に対して損害賠償を求めたというものです。

 

札幌地裁は、憲法違反の主張について、以下のような判断をしました。 

1.憲法24条および13条について

  • 憲法24条1項が「両性の平等」、「夫婦」という文言を、また同条2項が「両性の本質的平等」という文言を用いていることなどからすれば、同条は、異性婚について定めているものであって、同性婚について定めるものではないと解される。そのため、法律が同性婚を認めていないことは、憲法24条には違反しない。
  • 憲法24条を上記のように解釈する以上、包括的な人権規定である憲法13条が、同性婚をする権利を保障しているものと解することは困難である。

 

2.憲法14条1項について

以下の理由などから、同性愛者に対して「婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていること」は、憲法14条1項に違反する。

  • 憲法14条1項は、合理的根拠を欠く区別取扱いを禁止している。

 

  • 同性愛者が異性との間で婚姻することができるとしても、異性愛者と同等の法的利益を得ているとみることができないことは明らかであり、性的指向による区別取扱いがなされている。そのため、その区別取扱いについて、合理的根拠があるかを検討しなければならない。

 

  • 合理的根拠の有無について
    • 性的指向は、人がその意思で決定するものではなく、人の意思または治療などによって変更することも困難なものであることは、確立された知見に至っている。そうすると、性的指向は、性別、人種などと同様のものということができる。このような人の意思によって選択・変更できない事柄に基づく区別取扱いが合理的根拠を有するか否かの検討は、真にやむを得ない区別取扱いであるか否かの観点から、慎重に検討されなければならない。

 

    • 民法の制定時において、同性婚が認められないものと解されていたのは、同性愛が精神疾患の一種で治療すべきものとされていたためである。憲法24条が同性婚について触れていないのも、そのような理解が前提になっていたからである。しかし、平成4年頃までには、同性愛は精神疾患ではないとする知見が確立し、さらに、性的指向は人の意思によって選択・変更できるものではなく、また後天的に変更可能なものでもないことが明らかになった。したがって、同性愛が精神疾患であることを前提として同性婚を否定した科学的、医学的根拠は失われた。

 

    • 法律の規定は、夫婦が子を産み育てながら共同生活を送るという関係に対して法的保護を与えることを、重要な目的としていると解される。しかし、現行民法は、子のいる夫婦といない夫婦、生殖能力の有無、子をつくる意思の有無による夫婦の法的地位の区別をしていない。また、子を産み育てることは、個人の自己決定に委ねられる事柄であり、子を産まないという夫婦の選択も尊重すべき事柄といえる。さらに、民法制定時においても、子を産み育てることが婚姻制度の主たる目的とされていたものではなく、夫婦の共同生活の法的保護が主たる目的とされていた(※明治民法の制定過程においては、生殖能力のない夫婦の結婚を認めるかの議論があったが、最終的に、老年者や生殖不能な者の婚姻も有効に成立するとの見解が確立された。)。したがって、子の有無、子をつくる意思・能力の有無にかかわらず、夫婦の共同生活自体の保護も、法律の重要な目的であると解される。さらに近時においては、子を持つこと以外の婚姻の目的の重要性が増している。

 

    • そうすると、婚姻の本質は、両性が永続的な精神的および肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにあるが、同性愛者であっても、その性的指向と合致する同性との間で、婚姻している異性同士と同様、婚姻の本質を伴った共同生活を営むことができる。

 

    • 上記のとおり、憲法24条が同性婚について触れていないのは、同性愛が精神疾患とされており、同性愛者は正常な婚姻関係を築けないと考えられていたからであるが、現在においては、その知見は完全に否定されるに至った。また、そもそも憲法24条は、同性婚について触れるものではないため、同性愛者が異性愛者と同様に婚姻の本質を伴った共同生活を営んでいる場合に、これに対する一切の法的保護を否定する趣旨を有するものとは解されない。

 

    • 性的指向による区別取扱いを解消することを要請する国民意識が高まっていること、および今後もそのような国民意識が高まり続けるであることは、考慮すべき事情である。

 

    • 諸外国において同性愛者のカップルと異性愛者のカップルとの間の区別取扱いを解消するという要請が高まっていることも、考慮すべき事情である(※25か国以上で同性婚または登録パートナーシップ制度が認められており、G7参加国で認めていないのは日本だけ)。

 

    • 同性婚に対する否定的な意見や価値観を持つ国民が少なからずいることも、また考慮されなければならない。しかし、同性愛は精神疾患ではなく、自らの意思に基づいて選択・変更できるものでもない。圧倒的多数派である異性愛者の理解または許容がなければ、同性愛者のカップルが婚姻によって生じる法的効果を一切享受できないとするのは、同性愛者の保護にあまりにも欠ける。

 

    • (同性愛者のカップルでもあっても、契約や遺言により婚姻と同様の法的効果を享受することができるため不利益はない、という国の反論について、)婚姻は、契約や遺言など身分関係と関連しない個別の債権債務関係を発生させる法律行為によって代替できるものではない。そもそも、異性愛者であれば婚姻に加えて契約や遺言を利用できるのに、同性愛者には婚姻という手段がないのだから、不利益があるのは明らかである。加えて、配偶者の相続権についていえば、同性愛者のカップルであっても、遺贈や死因贈与によって財産を移転させることはできるが、遺留分減殺請求をうける可能性があるし、配偶者短期居住権についていえば、当事者の契約のみでは第三者に対抗することができない。

 

    • 以上のことからすれば、同性愛者に対して、婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは、合理的根拠を欠く差別手取扱いにあたる。したがって、現行法の規定は憲法14条1項に違反する。

 以上のとおり、裁判所は、民法と戸籍法の規定が憲法14条1項に違反するとしましたが、現行法を改廃していなかったことは国家賠償法の適用下では違法とはいえないとして、損害賠償請求を認めませんでした。確かに、最高裁判所が示してきた国家賠償法の解釈からすると、損害賠償請求までを認めるのは難しいのではないかと思います。

 

なお、興味深いのは、この判決が、「同性婚を認めないこと」が憲法に違反するとは述べておらず、同性愛者カップルに「婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていること」が憲法に違反するという、微妙な表現を用いているところです。

この表現からすると、札幌地裁としては、同性カップルの「婚姻」を認めなくても違憲ではないが、認定パートナーシップ制度などにより、婚姻と同じような利益(相続権など)は与えなければならないと考えているということだと思います。(報道などでは、「『同性婚を認めないことは違憲である』と裁判所が判断した」などと書かれていることが多いですが、厳密にはこのような書き方は不正確ということになります。)

このような表現を用いている理由は、「婚姻」という日本語の(法律とは関係ない)元々の意味からすると同性婚を含めるのは難しいかもしれないというものと、憲法24条1項が「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」としていることとの矛盾を避けるというものがあるのではないかと想像しています。

 

【書評】LIFE SCIENCE-長生きせざるをえない時代の生命科学講義

今日は『LIFE SCIENCE‐長生きせざるをえない時代の生命科学講義』という本をご紹介したいと思います。

著者は大阪大学名誉教授の吉森保さん。2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典教授の弟子で、オートファジー研究の世界的権威の1人です。2019年には紫綬褒章も受賞されているみたいですね。

 

流行りのオートファジーをその研究の第一人者の言葉で説明してもらえるということで、すぐにアマゾンでぽちりました。科学的な知識がない私には理解しきれない部分もありましたが、基本的に平易な言葉で説明してくれているので読みやすかったですし、何より自分の健康に直接的な利益があるテーマだったので、最後まで興味深く読むことができました。

 

オートファジー健康寿命の延長というテーマに興味がわいたので、本書中で紹介されている『LIFE SPAN』(ハーバード大学の教授が書いた世界的ベストセラー)も読みましたし、関係する他の本も読んでみたいと考えています。

 

◇オートファジーとは?

 

吉森教授によれば、オートファジーとは「細胞の中のものを回収して、分解してリサイクルする現象」のことだそうです。つまり、体の中の古いタンパク質などを、新しい物質に作りかえる現象のことです。

(日本語では「自食作用」といいます。自分の中の物質を食べて栄養を生み出すようなものなのでそう呼ばれるのでしょうね。)

 

オートファジーには、大きく以下の3つの役割があるそうです。

  • 飢餓状態になったときに、細胞の中身をオートファジーで分解して栄養源にする
  • 細胞の新陳代謝を行う
  • 細胞内の有害物を除去する

 ①については前からなんとなく知っていました(「トリコ」という漫画では、主人公がピンチのときにオートファジーで栄養を作って、火事場の馬鹿力を発揮するなんていうシーンもあります)。しかし、②と③については考えたこともありませんでした。

 

◇オートファジーで老化が抑制される

 

吉森教授によれば、老化の最大の特徴は様々な病気にかかりやすくなることだとされています(そのような病気を加齢性疾患といいます)。加齢性疾患には、たとえば肝臓の繊維病、パーキンソン病アルツハイマー病、生活習慣病があります。

 

そして、オートファジーには、そういった加齢性疾患の一部について、発生を食い止める働きがあるとされています。

 

また、上記のとおり、オートファジーには細胞内の有害物を除去する働きもあるため、免疫力低下の防止にもつながるとされています。

 

さらに、まだ実験で示されたわけではないものの、オートファジーはお肌の老化を防ぐ可能性もあるそうです(怪しい話のようにも聞こえますが、皮膚も角化細胞という細胞の一種であることを考えると、オートファジーの影響を受けることは感覚的にも不思議ではないですね。)。

 

◇オートファジーを活性化する方法

 

本書においては、日常生活においてオートファジーを活性化させる方法として、以下のようなものがあげられています。 

  • 「スペルミジン」という成分が含まれた食材を食べる(納豆、キノコ、みそ、しょうゆ、チーズなど)
  • カテキン」の含まれたお茶を飲む
  • アスタキサンチン」という赤色天然色素が含まれたイクラやエビを食べる
  • レスベラトロール」という成分(ポリフェノールの一種)が含まれたものを飲む・食べる(ブドウ、赤ワインなど)
  • プチ断食やカロリー制限をする
  • 運動する
  • 高脂肪食を避ける(揚げ物、肉の脂身など)

 これを読んで思った方もいるかもしれませんが、結局、昔から体によいとされていることをするのが、オートファジーを活性化することにつながるそうです。

 

以上のほかにも、科学的な考え方とは何か、細胞の基本的な仕組み、科学論文が発表される過程なども平易な言葉で説明されていて、とても面白かったです。科学自体に興味があるわけではない方(私もそうです)でも、楽しんで読めるのではないかと思います。

 ご参考までに『LIFESPAN』のリンクも貼っておきます。

企業法務弁護士の転職事情

就職先の法律事務所を選ぶ際に将来転職できるかを不安に思う方もいるでしょうし、現在進行形で転職を検討中の方もいると思います。

しかし、弁護士の転職についての情報はあまり出回っていません。

 

そこで、今回は、企業法務弁護士の転職事情について書きたいと思います。

 

1 企業法務弁護士は転職できるのか?

 

割と簡単にできます。

主な転職先は、企業内弁護士と他の法律事務所の2つです。

弁護士資格を使わない職種に転職する人もたまにいますが、いまのところ一般的ではありません。

 

大手事務所から中・小規模事務所への転職は頻繁にありますし、近年は大手事務所が拡大傾向にあったので、中・小規模事務所から大手事務所への転職も少なくありませんでした。

 

企業内弁護士から法律事務所への転職はあまり多くありませんが、「法律事務所⇒企業内弁護士⇒法律事務所」という転職であれば難しくないと思います。

 

2 転職活動の方法

 

転職エージェントを利用する方法と自分で応募する方法があります。

 

転職エージェントは、どの法律事務所や企業が中途採用活動を行っているのか、それがどのような条件なのかといった情報を有しています。

また、転職エージェントは、レジュメの作成や採用者側との事務連絡を行ってくれます。

そのため、すでに転職先とのコネを有しているなどの事情がないのであれば、自分で応募するよりも転職エージェントを利用した方が便利だと思います。

 

なお、転職エージェントへの報酬は採用する側が支払うのが通常ですので、費用の心配をする必要はありません。

ただ、転職エージェントへの報酬は結構高いので(転職者の想定年収の3割など)、採用する側としては自分で応募してきてもらった方がありがたいです(笑)

 

3 転職のタイミング

 

よくある転職のタイミングは、弁護士1~3年目と、弁護士6~10年目です。

 

10年以上の経験を有する弁護士が転職することももちろんありますが、それ以前と比べると、すでに法律事務所の経営者側になっている、年齢が高くなっており中途採用しづらいなどの理由により、流動性は低くなります。

 

⑴ 弁護士1~3年目の場合

 

弁護士1~3年目の場合、企業でいうところの第二新卒に当たると思います。

この頃の弁護士の転職先は、企業よりも他の法律事務所が一般的だと思います(理由は後で書きます)。

 

法律事務所や企業がこの頃の弁護士を中途採用する主な理由は、

 

  • 新人を採用するよりコスパがいいこと
  • その年次の弁護士が不足していること

 

の2つです。

 

新人教育にかかるコストは馬鹿になりません。いくら学生時代に優秀だった人でも、仕事を始めたばかりの頃は、戦力にならないどころか足手まといになるのが普通です。

しかし、企業法務系の事務所で働いていた人であれば、すでに仕事の進め方や企業法務に関する初歩的な知識を身に着けており、教育に労力をかけずとも戦力になる可能性が高くなります。

そのため、一般的に、経験を有する弁護士を中途採用することは、新人弁護士を採用するよりもコスパがいいのです。

 

また、法律事務所も新人の採用活動を行うのが一般的ですが、毎年いい新人を採用できるとは限りません。

いい新人を採用できたとしても、何らかの事情でその新人が辞めてしまうこともあります。

さらに、業務量の増加により人手が足りなくなることもあります。

このような場合、法律事務所は、足りない年次の弁護士を中途採用することがあります。

 

以上のような事情から、転職市場において、企業法務系の事務所で働いていた弁護士の需要は小さくありません。中途採用しか行っていない法律事務所もあるぐらいです。新卒時には入れなかった事務所に、転職であれば入れるということもあります。

 

ただし、新人採用が上手くいかなかった場合や採用した弁護士が辞めてしまった場合の「穴」は、中途採用により順次埋まっていきます。

また、他の事務所で長年働いていた弁護士の場合、採用する側の法律事務所とは異なる働き方を身に着けているなどの理由により、中途採用したとしても上手く機能しない可能性があります。

 

そのため、「第二新卒」枠での中途採用の場合、他の事務所での経験を4年以上有する弁護士は、対象から外れることが多くなります。

 

人員不足の「穴」が順次埋まっていくことを考えると、第二新卒での転職を狙うなら早く活動し始めた方が有利だと思います。

 

⑵ 弁護士6~10年目の場合

 

弁護士6~10年目の場合、他の法律事務所への転職に加えて、企業への転職も多くなります。

 

この頃の弁護士が転職する場合には、

 

  • 弁護士として一人前に業務をこなせる能力
  • ある程度の専門性

 

が求められるようになります。そのような能力が欠けているのであれば、もっと若い弁護士を採用して教育した方がいいからです。

 

また、企業が法律事務所での勤務経験を有する弁護士を中途採用する主な目的は、①基本的な法律問題を社内で解決できるようにすること、②特定の法律分野の担当者を獲得すること、および③外部に依頼する際に適切な法律事務所または弁護士を選べるようにすることの3つだと思います。

 

そのため、企業の場合には、若い弁護士よりも経験豊富な弁護士を中途採用する傾向にあります。これが、1~3年目の弁護士の場合に企業への転職が少ない理由です。

 

近年は企業に求められる法的な知識のレベルが上がってきており、企業は企業内弁護士を積極的に採用しています。企業内弁護士の数はすでにかなり増えましたが、まだしばらくは増え続けるでしょう。

そのため、少なくとも今後数年間は、企業への転職もそれほど難しくないのではないかと思います。

 

なお、弁護士の転職については以下のような本も出ていますので、参考になるかもしれません。

マスクの転売でついに逮捕者が!

2020年6月1日に、マスクの転売による初の逮捕者が出ました。

 

「マスク1万6000枚転売の疑い 高松の会社社長を逮捕 全国初」(NHK News Web)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200601/k10012454001000.html

 

マスク1万6000枚を1枚当たり約5円上乗せした価格で転売した容疑とのことですが、このニュースに対し、

 

・「たった5円上乗せしただけで逮捕されちゃうの?」

・「これぐらいは不当な高額転売には当たらないんじゃない?」

 

といった意見が散見されました。

 

しかし、大まかにいうと、法令は以下のようなマスクの転売を禁止しています。

 

  1. スーパー、ドラッグストア、ネット通販など、相手を選ばずに販売している人から購入したマスクを、
  2. 不特定または多数の人に対して、
  3. 購入時より少しでも高い値段で売却する行為

 

そのため、仮に1枚当たり5円しか上乗せしていないとしても、相手を選ばずに販売している人からマスクを購入し、そのマスクを不特定または多数の人に対し売却したのであれば、法令に違反することになるわけです。

 

そして、今回逮捕されたのはクリーニング会社の役員で、輸入販売業者から購入したマスクを販売していたということですが、通常、輸入販売業者がクリーニング会社の役員を個別に選んでマスクを販売することはありません。そのため、この輸入販売業者は、相手を選ばずに誰彼構わずマスクを販売していたのでしょう。

 

したがって、今回の行為は法令に違反する可能性が高いため、手続的な違反がない限り、逮捕に問題はないと考えられます。

 

なお、スーパーやドラッグストアなどが、通常の取引ルートでマスクを仕入れて販売している場合、仕入先は相手を選んで販売している業者(卸売業者など)であることが通常なので、法令には違反しません。法令は、普通の小売業者まで法令に違反することになってしまわないよう、きちんと配慮しているのです。

 

以下、ご参考までに詳しく記載しておきます。

 

1 どの法律でマスクの転売が禁止されているのか?

 

マスクの転売は、「国民生活緊急措置法」と「国民生活安定緊急措置法施行令」によって、2020年3月15日から禁止されています

 

コロナ禍でマスクの不足や転売が社会問題になったことをうけて、政府は施行令を改正し、マスクの転売を禁止しました。

 

これに違反してマスクを転売した場合、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはその両方を課されるおそれがあります

 

2 どれぐらいの利益を上乗せすると違反になるのか?

 

禁止されているのは、「購入価格を超える価格」でマスクを転売する行為です。つまり、購入価格よりも0.1円でも高く転売すれば、法令に違反することになります。

 

「購入価格」には、消費税や送料等を含みます。そのため、例えば、購入価格が1000円(消費税80円)で、購入時に送料として100円を支払った場合には、1180円以内で転売すれば、法令には違反しないことになります。

 

転売時については、転売価格と送料等の合計額が「購入価格」を超える場合であっても、転売価格が「購入価格」以下であり、かつ、送料等が一般的な範囲の金額である限り、法令には違反しません。しかし、送料等が一般的な金額に比べて明らかに過大であるときは、法令に違反します(厚生省ほか『国民生活安定緊急措置法による転売規制についてのQ&A』Q5-6)。

 

3 禁止されるマスクの「転売」とは?

 

禁止されるマスクの「転売」とは、「不特定の相手方に対し売り渡す者」から購入したマスクを、不特定または多数の人に対して販売する行為のことをいいます。

要するに、スーパー、ドラッグストア、ネット通販など、相手を選ばずに販売している人からマスクを購入し、それを不特定多数の人に販売する行為が「転売」に当たるということです。

 

そして、小売業者や卸売業者などが、通常の商取引において製造業者や輸入業者から仕入れたマスクを販売する行為は、「転売」には当たらず、規制の対象外です

なぜなら、通常の商取引では、製造業者や輸入業者は、相手方を特定して製品の販売を行っていると考えられるからです(上記Q&AのQ4-1参照)。

 

ただし、製造業者や輸入事業者が相手を選ばずにマスクを販売していた場合(ネットで売っていた場合や誰彼構わず声をかけて売っていた場合など)には、そこから仕入れたマスクを不特定多数の人に販売する行為は「転売」に当たり、規制対象となります(上記Q&AのQ4-1およびQ4-3参照)。

大手法律事務所への就活事情

法律事務所には、ざっくりと分けると以下のような種類があります。

 

  1. 大手法律事務所(五大法律事務所)
  2. 中規模・準大手の企業法務系法律事務所(弁護士が数十人~150人程度)
  3. ブティック系法律事務所(特定の分野に強い小・中規模の企業法務系法律事務所)
  4. 外資系法律事務所
  5. 新興形の中・大規模法律事務所
  6. 小・中規模の一般民事系法律事務所

 

私は1に所属していたことがありますし、現在は2に所属しています。そこで、今回はそれらの就活事情について書いてみたいと思います。

 (なお、「Lawyer’s INFO」という法律事務所に関する口コミ投稿サイトもあるので、ご覧いただくと面白いかもしれません)

 

1 就活の時期

 

五大法律事務所の採用活動は、司法試験が終了してすぐに始まり、それから1か月間程度で終わるのが通常です。

 

例年であれば、司法試験が5月中旬に実施され、5月下旬から応募と個別面接が始まり、7月初旬にはすべての面接が終了します。

司法試験の合格発表は9月なので、司法試験の合否が判明する前に採用活動が終了するということです。

(2020年はコロナウイルスの影響で司法試験の日程が8月中旬になったので、おそらく8月下旬から採用活動が始まるのではないかと思いますが、本日時点でまだ日程は発表されていません。)

 

ただし、魅力的な応募者が遅れて応募してきた場合には、いったん採用活動が終了した後であっても採用することがあります。

 

中規模・準大手の採用時期も、多くの場合は五大法律事務所と同様です

ただし、中規模事務所の場合、新規採用を毎年行っているとは限りませんし、そもそも原則として中途採用しか行っていない場合もあります。

 

2 採用基準

 

五大法律事務所の採用活動において重視される点は、

 

  1. 出身大学・大学院のレベル
  2. 大学・大学院時代の成績
  3. 予備試験合格の有無(合格している場合にはその成績も)
  4. 特殊経歴・特殊技能の有無
  5. 年齢
  6. (人柄)

 

です。

 

1と2のとおり、いい大学・大学院をいい成績で卒業したことは、五大の採用活動において非常に重視されます。実際、五大に入所する弁護士の大半は東大、京大、早慶のいずれかの出身者です(一橋は学生の数が多くありませんが、早慶と同等以上の扱いな気がします。続いて多いのは旧帝大と中央大でしょうか)。

 

また、3のとおり、予備試験に合格しているか否かも非常に重視されます。若いうちに予備試験に合格した人であれば、多少出身大学のランクや成績が劣っていても五大に入れる可能性は高くなります。

 

4の特殊経歴というのは、例えば有名企業で働いた経験を有していることです。有名企業で働いていた場合、その企業とのコネを期待できますし、その業界特有の知識や経験を活かせる可能性もあります。仕事のノウハウやマナーをすでに身に着けている点も魅力的です。

 

特殊技能というのは、例えば語学堪能であることです。企業法務系の事務所では英語や中国語を使う仕事もあるので、そのような言語を流ちょうに扱えることは魅力的です。また、その他の言語を扱えるのであれば、その言語を使用している国に関連する仕事を開拓できるかもしれません。

 

5の年齢は、できるだけ若いほうが有利です。あまり年齢が高いと五大の激務に耐えられない可能性もありますし、上としては仕事を振りにくくなります。

ただし、上記のように社会人経験がある人であれば、多少年齢が高くても障害にならない可能性はあります。

 

最後に、6の人柄です。あまりに性格に難があると、クライアントを怒らせてしまうかもしれませんし、将来自分でクライアントを開拓することが難しいかもしれません。また、チームで仕事をすることができない人かもしれません。さらに、何か問題を起こして事務所の評判を傷つける可能性もあります。

ただし、採用活動中に人柄を完全に見抜くことはできませんし、マナー等については働き始めてから教育すればよいので、若くて成績優秀な人であれば、多少人柄に問題があっても大きなマイナスにはなりません。

 

中規模・準大手の事務所の採用基準も、基本的にはこれと同様です。

ただし、中規模事務所の場合には大手よりも内部の人間関係が密になるので、大手に比べると人柄の重要度が増すと思います。

 

なお、イケメンや美女を優先的に採用しているとウワサされる事務所もありますが、真偽のほどは不明です(笑) ただ、見た目がクライアントの心情に与える影響は馬鹿にできないので、他の能力が同程度なら見た目がいい方が有利だとは思います。

 

3 採用プロセス

 

五大法律事務所の採用プロセスは、

 

  • サマークラーク(サマクラ)、ウインタークラーク(冬クラ)、スプリングクラーク(春クラ)を通じて、有力な候補者を見つける
  • 司法試験終了後、入所希望者が応募する
  • 応募者の中から採用基準に合う人を選定し、個別面接を行う(サマクラ・冬クラ・春クラの参加者には、応募してなくても事務所側からコンタクトをとる場合がある。面接なしで電話で採用オファーを出す場合もある)

 

というシンプルなものです。

 

サマクラ・冬クラ・春クラ(以下まとめて「サマクラ」)とは、学生に法律事務所での業務を体験してもらう制度のことをいいます。要するにインターンシップのことです。

期間は2日~5日間程度で、給料も1日1万円ぐらい出ます。

採用活動の一環であり、法律事務所側が魅力的な採用候補者を探すことに主眼があります。

 

最近では、五大法律事務所のサマクラには以下の4種類があるようです。

 

  • 学部生(3年生以上)の予備試験受験予定者または予備試験合格者を対象に、8月~9月に行うサマクラ(※TMI以外)
  • 法科大学院生を対象に、8月~9月に行うサマクラ
  • 法科大学院生を対象に、2月~3月に行う春クラ(※TMIのみ)
  • 予備試験合格者を対象に、11月~2月に行う冬クラ

 

サマクラ中は、学生に法律のリサーチをしてもらったり、メモ(検討結果をまとめた書面)をドラフトしてもらったりします。

しかし、学生の仕事が役に立つことはほとんどありませんし、数日間で出来ることは限られます。

そのため、実際には、食事に連れて行ったり、弁護士の講義を聞いてもらったりして、事務所側が学生をもてなす時間の方が長いと思います。その中で、事務所側は、学生の頭の回転の速さや人となりを確認するとともに、学生に事務所に対するいい印象をもってもらえるよう頑張るわけです。

もちろん、リサーチやメモのセンスがよければ大きな加点にはなります。

 

サマクラの結果、優先順位の高い候補者であると判断された場合には、採用活動が始まってすぐ事務所側から電話があり、できるだけ早い時期に個別面接の日程が組まれます。人によっては、面接せずに電話で採用オファーを受ける場合すらあります。

魅力的な候補者は他の事務所との取り合いになるので、事務所はできるだけ早くオファーを出して採用を決定したいのです。

 

中規模・準大手の法律事務所の場合も、個別面接を行って採用を決める点は五大法律事務所と変わりません。もっとも、サマクラを行っている事務所は限られます。

五大に比べて情報が出回りにくいので、「アットリーガル」などの情報サイトを利用したり、事務所のホームページを確認するなどして、積極的に情報収集を行う必要があります。

 

4 個別面接の概要

 

五大法律事務所の個別面接は、学生1人に対して弁護士3~4人ぐらいで、個室で行うのが一般的です。もっとも、厳密には決まっていない事務所もあり、途中で弁護士が入れ替わったり抜けたりすることもあります(企業のように採用活動の専任者がいるわけではないので、みんな仕事をこなしながら採用活動を行っています)。

 

質問される内容は、興味のある分野、趣味、学生時代の生活、親族中の法曹関係者の有無などですが、これも厳密には決まっていない事務所が多いと思います。むしろ、候補者に対して何か質問はないかと尋ねる時間の方が長い場合もあります。

上記のとおり、五大の採用基準において候補者の人柄が占めるウエイトは大きくなく、一見して大きな問題がなければ、基本的には書面上の成績順に採用が決まります。そのため、面接の内容はそこまで重要ではないのです。

 

面接の日程は、原則として優先順位が高い候補者から順番に決まります。

 

そして、優先順位が高い応募者の場合には、最初の面接で採用オファーを出す場合があります。サマクラに参加したことのある応募者の場合には、このパターンが多いです。また、近年は五大が大量採用を行っていたので、サマクラに参加していなくても即オファーを出す場合が少なくなかったと聞きます。

他の事務所と取り合いになっている候補者の場合には、面接後に飲み会に連れていき、酔ったすきにオファーを受諾するよう促したりもします(笑)

 

優先順位が中程度の応募者の場合には、2~3回面接を行い、優先順位の高い応募者の採用状況を見て、採用枠が残りそうな場合にオファーを出します。もっとも、面接してみて好印象だった場合には、すぐにオファーを出す場合もあります。優先順位に応じて、飲み会に連れて行ったり連れて行かなかったりします。

 

優先順位が低い応募者の場合には、比較的遅い時期に最初の面接が入ります。そして、何回か面接しつつ、その時点で有力な応募者を他の事務所に取られてしまっており、採用枠が残りそうな場合にオファーを出すことがあります。飲み会に連れていく候補者の数は限られます。

 

飲み会で使うお店は高級なお店ばかりで、高級焼肉や料亭にも連れて行ってもらえます。優先順位の高い候補者であれば、二次会で高級ホテルのおしゃれなバーに連れて行ってもらえることもあります。

 

私も就活生時代に何回か飲み会に連れて行ってもらいましたが、酔っぱらって寝ているパートナーがいたり、勝手にドンペリを注文するアソシエイトがいたり、三次会でこっそりキャバクラに連れて行ってくれる弁護士がいたりと、とても楽しかったのを覚えています(笑) 企業では考えられませんね。

 

弁護士は客前で話さねばならない商売です。営業で飲みに行くこともあるかもしれません。ですので、緊張して口数が少なくなるのはマイナスであり、あまり気負わずに楽しく話せた方が好印象だと思います。

 

中規模・準大手の法律事務所の場合は、五大法律事務所ほど大人数を採用するわけではないため、ひとりひとりの新人の重要度が高くなります。そのため、よほど魅力的な応募者でない限り、最初の面接ですぐにオファーを出すことはないと思います。

もっとも、サマクラを行っている事務所であれば、サマクラ参加者に対して最初の面接でオファーを出すこともあります。

 

また、中規模・準大手でも面接後に飲み会に行くことがありますが、五大ほどきらびやかなお店には行かないのが通常だと思います(笑)

 

なお、弁護士の就職については以下のような本も出ていますので、参考になるかもしれません。

五大法律事務所それぞれの特徴

前回は五大法律事務所の共通点について書いたので、今回はそれぞれの特徴について書いてみたいと思います。

 

なお、前回と同様、古い情報または正確ではない情報の可能性もありますし、私の個人的な意見も含みますのでご注意ください。

 

1 西村あさひ

 

西村あさひは、「体育会系・団体主義」の事務所だと思います。つまり、ワイワイとしたイベントや飲み会が好きな体育会系の人が集まる傾向にあり、かつ、個々の弁護士の裁量よりも組織としての規律を重んじる傾向にあるということです。

 

長年継続して国内最大手の地位を守っており、業界における知名度と評判は非常に高いです。国外進出も率先して行っています。スタープレイヤーが多く、所属弁護士が書いた本も数多く出版されています。

 

また、国内の法律事務所の中では組織として最も成熟しており、経営が上手いという印象があります(法律事務所は基本的に個人事業主の集まりであり、良くも悪くも組織運営が未成熟な場合が多いのですが、西村あさひは企業並みにキッチリと組織として運営されている印象があります)。

 

ただし、西村あさひは激務で有名であり、五大のなかでもアソシエイトの労働時間が一番長いと言われています。

 

所属弁護士は個性の強い人が多く、自分の夢や趣味について熱く語る人がたくさんいます。私が就活生時代に西村あさひのパートナーと食事に行かせていただいた際には、そのパートナーは採用活動の場にもかかわらず終始自分の好きなアイドルの話をし続けていたので、反応に困った記憶があります(笑)

弁護士などの専門家は周りを気にしない人の方が向いているといわれているので、この傾向は別に悪いことではないと思います。ただ、典型的なA型の日本人だと埋没してしまうかもしれません。

 

基本的にチームで動くので、チームトップのパートナーと合わないと辛いという話も聞きます。

もっとも、師匠と弟子のような関係になるので、チーム内の弁護士から多くのことを学べるという意見もあるようです。

 

最大手だけあって取り扱い分野は幅広く、どの分野でも強いです。特に、M&Aと倒産・危機管理については五大の中でも高い評判を誇っています。

 

給与は固定給+ボーナスで、固定給部分が毎年増えていく方式です。

 

体力に自信があり、体育会系のノリが好きで、チームで頑張るのが好きという方には向いているのではないでしょうか。

 

2 アンダーソン・毛利・友常

 

アンダーソンは、「文化系・個人主義」の事務所だと思います。つまり、穏やかな性格の人が集まる傾向があり、かつ、比較的個々の弁護士の裁量を重んじるということです。

 

極端な性格の人が少なく、四大の中では一番人当たりのいい人が多い印象があります。

 

五大の中では労働時間が短い方と言われています。

ただし、アンダーソンのアソシエイトの労働時間は個人差が大きく、五大で一番忙しいアソシエイトはアンダーソンにいるという話も聞いたことがあります。

 

前身となる「アンダーソン・毛利法律事務所」が外国人弁護士により設立されたという経緯もあり(実は毛利氏もアーサー・毛利という日系アメリカ人です)、いまでも外資系法律事務所に似た文化を有しているようです。

 

もっとも、現在のアンダーソンは、上記のアンダーソン・毛利法律事務所と、「友常木村法律事務所」と「ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所」の3事務所が合併・統合して成立した事務所です。そして、友常木村とビンガムは、日系企業のような文化を持っていたそうです。

そのため、上記の「文化系・個人主義」とは全く異なる特徴をもつ弁護士もたくさん所属していると聞きます。特に、友常木村が得意としていた証券発行系の案件や、ビンガムが得意としていた倒産・危機管理案件を専門とする弁護士については、その傾向が強いのではないかと思います。

 

五大の中でも海外クライアントの比率が大きく、海外におけるプレゼンスは大きいと言われています。若手アソシエイトのうちから英語を扱う案件に関与することも多いようです。また、留学にいくアソシエイトの割合もかなり多いと思います。

 

また、四大の中では唯一セクション制(分野ごとに部門を区切る方式)を採用していないため、アソシエイトは色々な分野の案件に関与することができると言われています。

ただし、色々な分野の案件をやる場合、特定の分野の案件を繰り返すよりも大変ですし、専門性を高めるのに時間がかかるので、それらの点は覚悟する必要があります。

 

分野としてはキャピタルマーケッツを含むファイナンスに強く、M&Aや訴訟は他の四大と比べて若干弱いというイメージです。ただし、上記のとおり海外におけるプレゼンスは大きく、国際案件全般に強いとはいえそうです。あと、労働事件も五大の中では多く扱っている印象があります。

 

給与は2年目まで固定給、3年目からは固定給+顧客への請求金額に応じた歩合給です。歩合給を採用しているので、頑張りによっては西村や森濱田よりも多くの収入を得られる可能性があります。

 

国際的な案件に興味がある人、色々な分野の案件をやってみたい人、大企業の労働案件をやってみたい人などには向いているのではないかと思います。

 

3 長島・大野・常松

 

長島は、「文化系・団体主義」の事務所だと思います。つまり、穏やかな性格の人が集まる傾向があり、かつ、個々の弁護士の裁量よりも組織としての規律を重んじる傾向にあるということです。

 

アンダーソンと同様、極端な性格の人が少なく、穏やかで接しやすい人が多い印象があります。また、弁護士事務所は企業と比べると変人に寛容な場合が多いのですが、長島は事務所全体としてキチッとしており、身だしなみや礼儀に厳しいという印象もあります。

 

また、長島は五大の中でもアソシエイトに対する評価がシビアで、評価されているアソと評価されていないアソで、扱いかはっきりと違うとも言われています。

例えば、評価されているアソにはどんどん仕事が振られるのに対し、評価されていないアソには仕事が全然振られない(干される)と聞きます。

また、評価されているアソは留学後の海外研修先まで事務所が面倒を見てくれるのに対し、評価されていないアソは自分で研修先を探さなければならず、もっと評価されていないアソは留学後に事務所に戻ってこなくてよいと言われる、という話も聞きます(研修先については、実際には仲のいいパートナーがコネを持っているかどうかが大事であって、必ずしも評価と結びついているというわけではなさそうですが)。

よく言えば実力主義、悪く言えば冷たいということでしょうか。

 

また、そのように評価がシビアなので、パートナーになるのも五大のなかでも難しい方であると聞きます。

 

どの分野にも強いですが、特にファイナンスにおける評判は高いです。また、税務訴訟では国を相手に連戦連勝であったとも聞きます。

 

給与は2年目まで固定給、3年目からは固定給+労働時間に応じた歩合給です。長島はこの歩合給の割合がいいことで有名であり、おそらく五大の中で最もアソシエイトの給料が高くなりやすいのは長島だと思います。

ただし、上記のとおりアソシエイトに対する評価がシビアらしいので、パートナーから仕事がもらえず労働時間が増えない場合には、必ずしも給料が高くなるわけではないでしょう。

 

キッチリした雰囲気が好きであり、バリバリ働いて若いうちからガッツリと稼ぎたいと考えている方にはおすすめできる事務所です。

 

4 森・濱田松本

 

森濱田は、「体育会系・個人主義」の事務所だと思います。つまり、ワイワイとしたイベントや飲み会が好きな体育会系の人が集まる傾向にあり、かつ、比較的個々の弁護士の裁量を重んじるということです。

 

その体育会系ぶりは、西村あさひよりも上なのではないかと思います。体格がよく声の大きい豪快な人が多いイメージです。

私が就活生として森濱田のパートナーと食事に行かせていただいた際には、一次会で焼き肉を食べ、二次会でたらふくお酒を飲み、もうお腹いっぱいだと思っていたところ、パートナーが締めの卵かけご飯を人数分注文しだしたので、「これがモリハマか!!」と感動したのをよく覚えています(笑)

 

また、森濱田の面白いところは、案件を一次的に担当する若手アソシエイトをパートナーよりも前面に押し出すことです。

依頼者はアソシエイトではなくパートナーのお客さんなので、一般的には、アソシエイトをパートナーよりも前面に押し出すことはしません。例えば、書面に弁護士の名前を記載するときは、パートナー⇒アソシエイトの順番に記載するのが通常です。また、依頼者との直接の連絡は原則としてパートナー(またはパートナー就任が近いシニアアソシエイト)が行うという事務所もあります。

しかし、森濱田では、たとえ担当アソシエイトが若手であろうと、書面にアソシエイト⇒パートナーの順番に名前を記載することが少なくありませんし、クライアントとの直接の連絡も基本的に担当アソシエイトが行うらしいです。

このような環境下で仕事をすれば、アソシエイトはモチベーションを高く保てるかもしれません。

 

分野としては、特に訴訟・紛争とM&Aの評判が高いです。M&Aは、いまのところ森濱田と西村あさひが国内の2強といえると思います。訴訟・紛争については、前身である森綜合法律事務所の時代からとても有名であり、五大の中でも森濱田が圧倒的な評判を誇ります

 

ただし、国際案件については、他の四大に比べてプレゼンスが小さい印象があります。留学にいくアソシエイトの比率も他の四大と比べると低いと思います。海外案件を全く扱っていない弁護士の比率も五大の中では大きいのではなでしょうか。

 

給与は、1年目は固定給、2年目からは固定給+ボーナス(労働時間または顧客への請求額に応じた評価に基づく)です。

 

体育会系のノリが好きで、国内案件をバリバリやりたいと思っている方には向いているかもしれません。

 

5 TMI総合

 

TMI総合は、四大とはかなり異なる特色を有する事務所です。

 

体育会系か文化系かというと、ちょうどその中間ぐらいでしょうか。また、団体主義か個人主義かについては、下記のように中小事務所の特色を残していることから、どちらかというと個人主義だと思います。

さわやかなスポーツマンタイプの人が多く、四大と比べると良くも悪くも「普通」の人が多い印象です。

 

ベンチャー案件や知財案件を売りにしており、六本木ヒルズにオフィスを構えるなど、ぱっと見では「今どき」な印象を受ける事務所です。しかし、近年急拡大した事務所であることもあり、その実態は、中小規模事務所の頃の性質を色濃く残した、コテコテの日系企業のような事務所だと聞きます。

例えば、弁護士400人を超える規模になったにもかかわらず、いまでも毎年事務所全体での旅行があるというから驚きです。

2019年には、事務所の創立30周年を祝うため、有名作曲家に依頼して事務所の社歌(!)を作り、サントリーホールを貸し切って豪華なコンサートを開催したそうです。

 

また、四大と比べると弁護士報酬の値下げが激しいことで有名です。そして、その値下げは、パートナーが関与する時間を極力減らし、アソシエイトが中心になって案件をこなすことで何とか実現しているそうです。

また、弁護士の出身大学や成績の全体的なレベルは、四大に比べると少し劣ります(ただし、直近数年の入所者の経歴は四大とそん色ないので、この差は解消されていくと思います)。

そのため、すくなくとも現時点では、四大に比べて仕事の平均的なクオリティが多少劣ることは否めないと思います。

 

もっとも、すべての案件で最高のクオリティの仕事が求められるとは限らず、依頼者からすれば、1000万円で100点の仕事をするよりも、500万円で80点の仕事をした方がありがたいこともあります。

また、アソシエイトとしては、自分が中心となって案件をこなすことで、四大よりも多くの経験値を得られる可能性があります。

そのため、ビジネスの観点やアソシエイトの成長の観点からは、TMIが四大に劣っているとまで言えないと思います。

 

また、上記のとおりTMIはベンチャー案件や知財案件などを売りにしており、そのような案件ではかなりのプレゼンスを有していると思います。

ベンチャーキャピタルファンドやデータプライバシーに関する会社を自ら設立するなど、法律事務所としては異例ともいえる取り組みも行っており、今後それらの分野でのプレゼンスがますます大きくなることも予想されます。

 

給与は固定給+ボーナスで、固定給部分が毎年増えていく方式です。四大と比べると固定給の金額が数百万円ぐらい低いと言われており、これも採用活動で四大に後れを取る原因になっています(初任給でいうと、四大が1200万円ぐらいでTMIが1000万円ぐらいでしょうか)。

もっとも上記のとおり、いまのところは「常に最高のクオリティの仕事をして高い報酬を請求する」という方針ではないようなので、そもそも四大に採用で競り勝つつもりはないのかもしれません。

 

また、パートナーへの就任も、いまのところ四大ほど難しくはないと聞きます。

 

いい人たちと一緒に、事務所内での人間関係を大切にしつつ、給料の高さよりも弁護士としての総合的な成長を重視したいと考えている人には、TMIが向いているかもしれません。